牛

大分県 国東市

〈生産者インタビュー〉

株式会社 ファゼンタ国東 浅井 敏彦さん

生産者

とても静かで空気もきれい。牛たちも気持ちいい。

標高300m。はるか向こうまで見渡せる180度の視界。眼下には、なだらかな山の稜線がつらなり、その向こうには青く波立つ豊後水道。晴れた日には、四国・佐多岬まで見渡せます。なんといい眺めで、空気もおいしい! ファゼンダ国東は国東半島の東側、海沿いに広がる安岐町の山の上にありました。

取材に訪れた事務所はログハウス。バーベキューコーナーもあります。「私はカウボーイに憧れていて、若い頃はアメリカやブラジルにも行きました。この農場もオーストラリアで視察した牧場をまねして、楽しく仕事ができるように工夫しましたよ」。浅井さんは牛とともに、この最高の環境を満喫しているようです。

ファゼンダ国東は大分県内でも比較的大きな規模の農場で、広さはおよそ12ヘクタール。多い時には約1000頭の牛を肥育しています。そのうちでコープの牛肉として出荷するのは、乳牛で知られるホルスタインです。「実はホルスタインって、肉牛としてもおいしいんですよ。赤身が多いヘルシーな牛肉で、脂が少なくさっぱりした味わいが人気なんです」と教えてくれました。

点在する牛舎は牛の月齢によって区切られています。生後1カ月の子牛、2カ月目、4カ月目、そして成牛といくつも部屋があり、どの牛舎にもほぼ“同い年”の牛の姿があります。近づいてみると毛艶がよくどっしりしていて、いかにも元気がよさそう。その健康は、どうやってつくられているのでしょう?

“ストレス”をかけずに、“手”をかけています。

「いい牛をつくるには、ストレスを極力かけないことですね」と浅井さん。牛は見かけによらず、とてもデリケートで憶病者です。大きな物音や車のエンジン音、見知らぬ人の頻繁な出入りなどでもストレスを感じます。それが原因で、元気をなくしてしまう牛もいるほどです。「ストレスのない環境に、適度な運動と睡眠、質のいい餌。大切なものは、人間と全く同じですよね」。時にはストレスによって、肉の色まで変わることがあるそうです。

農場では、生後1カ月の子牛を購入し、肥育を始めます。ミルクを中心とした栄養たっぷりの離乳食を与え、細かく目配りをしながら常に健康状態をチェックしています。「毎日1頭1頭の食欲や毛並みを見て、体温を測り、動きや表情を確認しています。子牛に限らず成牛も、私たちがいかに手をかけて育てるかが肉の品質を決めることになりますね」。

餌にも工夫があります。
子牛の時はカルシウムを多めに、ある程度成長したら頑丈な骨格を形成するようタンパク質を増やします。成牛になった後はがっちりと肉をつけるために炭水化物を中心に。成長の段階を見極めながら、餌の内容や配分を変えていくのも生産者の腕と技なのです。

「それでも肉に加工してみなければ、最終的な肉質は分からない。そういう意味ではとても難しい仕事です。私はもう30年以上も牛を育てていますが、未だに勉強、勉強ですよ」。

おいしい肉に育てることが、私たちの使命。

どんなに気をつけていても、生きものには感染症の心配がつきまといます。かつて「牛海綿状脳症(BSE)」が日本で広がった時、ファゼンダ国東でも疑似感染が発生し、一部を処分せざるを得なかったという苦い経験があります。「自分が好きではじめた仕事だから、絶対にやめないぞ!と頑張りましたが大変でした」。風評被害の拡大により、畜産農家として窮地に立たされたことから、現在も感染症の予防には細心の注意を払っています。

また、浅井さんは「ここにいる牛たちは、人間の手により生まれてきた牛。つまり経済動物なのです。だからこそ、いい肉をつくりあげるのが私たちの使命。その肉を組合員さんがおいしいと食べてくださる。それが、いちばんなのです」。

牛が大好きで、牛を大切に思っているからこそ聞ける、浅井さんの言葉です。今、しみじみと感じるのは、私たちは毎日の食卓で“命”をいただいているということ。あらためて牛に感謝を。そんな気持ちが湧いてきました。